脳の進化・人間知性研究センター開設シンポジウムに行ってきた(1)

 結局あれから10日もたってしまった。今さらかよ、という感じではあるが5月23日に催された人間知性研究センターキックオフシンポジウムに行ってきた。http://www.carls.keio.ac.jp/pdf/20090523ningenchisei_kick.pdf
 当たり前だがほとんどが研究者で私のような一般人はほとんどいなかったが、まあ参加無料だし、席あいてたしたまには空気をよまなくてもよい日があってもよいだろう。正直いって、渡辺茂教授や清水透さん、理研の入来さんは、すでに別のところで聞いたことがあるような話だった。
以下の記述は私のあやふやな伝聞であり、本人たちが話したものと異なっている場合があります

渡辺茂 慶応大学文学部教授 生物心理学「センターの目指すもの」
 本センターは、最終的に今後の人間知性の発展がどの方向に行くのかを検討する。それには、ヒトとなるまでの進化史、選択圧、そして人間の中での発達を解明しつつ、現状の人間の脳機能や複雑系(数学によるモデル)を介して人間の脳を明らかにし、これまで蓄積されてきた人文系の学問を活かしながら、今後文明がどのように発展していくかを考えることが必要である。言語はコミュニケーションの手段であるという点と演算の道具であるという点が重要。ヒトの脳の発達は、生物的なヒトが生まれてからすぐに頭打ちになっていることから、人間の心は、生物遺伝的な変化というよりは、文化などの蓄積によって発展してきたといえる。当面は私を含め4人の研究者でやっていく。年に4回シンポジウムを行う予定である。
 
清水透 南フロリダ大学 神経科学・心理学教授 比較認知解剖学「知性の起源と進化」
 最初にこのセンターや日本の(知性の生物学的な)研究に期待したいものを述べたい。私の研究はアメリカのさまざま科研費から支援を得て成立している。ある調査が、世界35か国に、進化を信じる人の割合を調査したところ、アメリカは33位であった。またアメリカ国内のある調査によると、「人間の誕生に神が関与しているか」という質問に対し、一般人の30%が「何らかの形」でと答え、48%が「もちろん」と答えた。私たち生物系の研究は、一般の人から何をやているかわかりずらいが、一般の人の理解が必要。でもアメリカでは進化に対する考え方の違いから、一般人とエスタブリシュメント層はかい離してしまっている。日本では、先ほどのランキングは実は5位であった。日本では宗教的なしがらみがなく、一般の人の理解のもとにこうした研究ができるという利点がある。
 鳥類の脳とヒトの脳は別々に進化し、発展してきた。それぞれの進化の過程を正しく把握するためには、脳の比較研究が必要である。しかし、異なる動物の脳の比較というのは特有の難しさがある。ハトの脳を例にとろう。ハトは人間と同程度の視覚認知能力を持っている。ピカソとモネの絵も見分けられる。鳥の顔の認知の研究もある。ハトは発情期にメスを見ると求愛行動をする。オスを箱の中に入れ、実物のメス、ビデオのメス、アニメーションのメスをそれおぞれ見せたところ、その順番で反応が多かった。どの部位で判断しているのかアニメーションを変えてみると、特に頭、顔の部分で判断していることがわかった。
 ハトは霊長類と同じように顔を識別できるが、それを形成する神経メカニズムは大きく異なる。ヒト(哺乳類)と動物の脳を比べるとき、ヒトと動物の脳の対関係を明らかにすることが重要であるがこれは一筋縄ではない。鳥類は、皮質に当たる部分が哺乳類の大脳皮質に対応すると考えられてきたがどうもそおうではない。皮質ではなく、核であるDVRの一部が哺乳類の大脳皮質の役割を担っているようだ。また、鳥類もヒトと同じように、右視野を左側の脳が、左視野を右側の脳がつかさどっているが、その神経連絡の交差の仕方は異なる。
 鳥類が優れた視覚を持っているのは、それがヒト似ているからではく、似たような環境に適用するように独自に進化したからであり、生存に必要だからである。これは鳥の飛ぶという生活の仕方が関係していると考えられる。飛んでいるときにものを見るには、素早いスピードで判断できる視覚認知がなければならない。途中休みが必要な両性類や爬虫類と異なり、常に運動し続ける高いメタボリズムがあることも関係している。

今井倫太 慶応大学理工学部準教授「ヒューマン・ロボット・インターフェース」
 人間が重いものを持っていてドアの前にたっいるのをみれば、それを言葉にしなくても、他の人間が助けてくれる。しかし、ロボットの場合はそうではない。これは、単に「人助け」にはその場の状況だけではなく、その人との「関係性」が存在することが前提になっているからだ。実際、被験者の携帯画面にいたキャラクターをロボットに転送して、その人とロボットとの関係性をつくったところ、その人はロボットを助けることができた。
 別の実験では、道を教えるときの身振りを試した。人対人のとき、教えられる側は、教える側の指差しなどの身振りを無意識にまねている。これをロボット対人で試したところ、ロボットが指差しをしないとき、人は直立不動であったが、ロボットが指差しやったとき、人も一緒に手を動かした。
 電気製品や家具など様々ものを擬人化する試みをしている。たとえば冷蔵庫に目と口をつけるなど。


神経美学などについても書きたいのですが、時間がないのでとりあえずここまで。