脳科学と行動実験

以下、神経科学というか基礎科学は直節的には役に立たないよね、という話。
http://www.mumumu.org/~viking/blog-wp/?p=2682

加えて以前のエントリにも書いた通り、いざ神経科学を通じて得られた知見を実社会に還元しようとしたところで、今度は非常に高いハードルが立ちはだかります(現在神経科学的手法を用いて行われている医療の数々は先人の大変な努力によってそのハードルを乗り越えたものだけに限られるのです)。100年、1000年後に人類の役に立つかもしれない神経科学の知見は非常に数多くありますが、3年後に役に立つ知見はそのごくごくわずかでしかありません。その、いつか人類の役に立てるようになる日が来るまで、神経科学という学問を守り育てていかなければならない。それが我々神経科学者の使命だと僕は考えております。

 そういう学者が人気を博すということは、一般に脳科学への過剰な期待が存在している、ということでもあるのだろう。でも、だいたいの人は神経研究というもののほかに行動研究があることを理解していない。たまに「脳科学によって○○の効力が判明した」みたいな報道を聞いたり、脳トレが頭をよくする、みたいな話を聞いたりする。でもそれってどうやって実験しているのかわかってない人が多い。
 神経研究にもいろんな手法があるが主流は脳画像研究だろう。fMRIでは脳のどの部分が賦活しているかがわかる。TVなどでもおなじみである。でも結局神経科学というのは神経の仕組みがどうなっているか、ということを明らかにするものだ。認知や情動を研究していても、「システム」がどうなっているかについての研究がほとんどだろう。現在どうなっているのか、を調べているのだから、できないことをできるようにする、ということは神経科学そのものではない。
 行動研究では、訓練をしたり、課題のできを計測したりする。だから脳トレをやったものが知能が上がるか、を検証するのは脳研究ではなく、行動研究なのだ。脳研究はあくまで、行動実験と並行したうえでの傍証にすぎない。
 もちろん、脳研究が意味がない、といいたいわけではない。でも人々が期待しているものは、行動研究をやって初めてわかることも多い、ということ。