茂木健一郎の何が問題か?〜不毛なあいのり発言を科学で斬る!

TVあんま見ないので、私はこの人にあんま関心がなかったのだけど、いざ著書を手にとってみるとけっこう問題だなとは
最近思いはじめてていた。
これは著書を拝見した限りの学問的な観点で。 しかし、TVはそれ以前のレベルとしてひどいんだな。
遅れながら、12月のあいのり発言をしる。
高校生が見てもおかしいと思いそうな記述もある。
以下、
spiklenci-slastiさんの起こしを元に以下思うところを。
大半は科学の話以前だが、一応傾向をまとめたいと思う。
http://d.hatena.ne.jp/spiklenci-slasti/20081227/
結論を先にしめすと
1)脳科学的に微妙な仮説をさも定説であるかのように話す。(半球の優位や性差)
2)脳科学的に証明がない思いつきを定説であるかのように話す。(右脳バランスと現実、狩人時代と脳、不安と脳)
3)一般論に「脳」という単語をつけてあたかも脳科学的に支持されているように話す。(不安と脳)
4)論理の飛躍や定義不明なメタファー、用語を使っていてよく考えると何言ってるかわからない。(右脳バランスと現実、「左脳の暴走」、「負のスパイラル」、「感情の脳」)

ひとつめのVTR

ナレーション

「男と女の永遠のナゾ。恋のすれ違いはなぜ起きるのか。そんな不毛(疑問?)を、科学で斬る!」

「あいのり恋愛講座。なぜ男は理想を語り、女は現実を考えるのか。その答えに迫るのは、この人!脳科学者、茂木健一郎。」

茂木

「そのナゾを解き明かす答えは、私たちの中にあるのです。」

「特に、脳。」

以下、男女で片側優位性の違いについて、語り始める。この研究は確かにされてるが、現段階で男女の行動差を説明するコンセンサス、定説はない。仮説程度。そもそも片側優位性自体、「左脳は言語、右脳は感情」みたいな絶対的なものではなく、相対的な微妙な差でしかない。

ナレーション

「私たちの脳には、いったいどんな秘密が隠されているんでしょうか。」

茂木

「実は、男と女の脳の作りってのは、違うんです。」

ナレーション

(左脳と右脳の機能差についての解説および、男女で脳梁の太さが違い(女性の方が太い)、女性は両半球をバランスよく使い、たくさんの情報を処理することができるのに対して、男性は片方、特に左脳を集中して使うことが多いという話の紹介)

茂木

「男のひとが女のひとを口説くときに使うのがこの、左の脳、この、言語野っていうですね、ここらへんにあるとこなんですけど。」

はい。右ききの人の90%以上は、言語能力が左脳優位と言われています。(Milner,1974)

ただし、これは「言語」についてっであって「口説く」こと限定なんかじゃないですけど。

「男の場合はですね、どうしてもその、言葉が、現実から離れてひとり歩きしがちなんですね。」

「いっぽう女のひとっていうのは、この、右脳とバランスをとった形で言葉を使うんですね。」

「だから、男の言葉はときに、上滑りして、現実から離れる。」

「いっぽう女はですね、いつも、現実を忘れないでいる。」

「こういう違いがあるわけです。」

まず、脳科学以前に論理的に意味不明。「右脳とバランスをとる」となんで「現実を忘れない」すかね。
右脳が現実把握を担うとでもいいたいのかな。


あと言語に関して男女で脳半球の機能が違うってのは,茂木に限らず一般化していると思うけど、実際はそこまではっきりした定説はない。
男女の片側優位の違いの証明は、McGlone(1980)の片側性の脳卒中患者を使った研究が有名だが、のちの機能画像研究で支持されなかったり、いろいろ。言語関係の課題で、女性は両半球を使う傾向があるという研究もあるが、まだはっきりと何かが言える状態でない。
もちろん右脳とのバランスが現実忘却の機能があるなんて研究はないだろうし、今後もありそうにない。そもそも現実って?

ナレーション

「そもそも、なぜ男の脳と女の脳は、違う作りになってしまったんでしょうか?」

茂木

「そのナゾを紐解くには、私たちがまだ、狩りをしていた時代にまで、遡らなければなりません。」

ナレーション

(狩猟時代、男たちは狩りに出て獲物を捕まえており、また仲間たちと道具を作りながら大物を捕まえる夢や理想を語り合っていたこと、そしてその一方で女たちは男の帰りを待つあいだ、食料の残りや在り処という現実をしっかり把握しながら生活していたこと、そしてこの、生きていく上での役割の違いによって、男は理想を語り、女は現実を考えるようになった、という風な話の紹介)

「さらに!からだの作りの違いも関係しているというんです。」

茂木

「まあ、男のほう、これは、まあ、動物界、オスはすべてそうなんですけれども、なるべく多くのメスを得ようとするわけです。」

「オスにとってはですね、言葉で相手を口説くときにもそれは、可能性で十分なんですね。」

「男はだから、言葉という飛び道具を使うわけです。」

「その飛び道具で、まあ百うって、一つでも二つでも当たればいいっていう、極端なことをいうと、そういう存在が、オスなんですね。」

ナレーション

「飛び道具としての男性の理想の言葉は、女性を心地よくさせてくれるもの。しかし、すぐに女性は現実に戻ってしまいます。それは一体なぜなんでしょうか?」

茂木

「でも、メスはでも、自分のからだで子どもをはぐくみ、育てなければいけないわけですから、非常に慎重に、ひとりの人を選ばなければいけない。」

「百うって一つ当たるじゃ困るんですよ。これは、必ず、そう、ひとつ、自分がつかんでるひとつを大切にはぐくまなくちゃいけないんですよ。」

「ですから、ある意味では、メスというのは、その、地面に足をちゃんとつけてるわけですね。」

「この、飛び道具と、地面に足をつけてるっていう、これの違いがですね、男女の脳の働きの違いにも、まあ現れて、くるわけなんですね。」

なるほどありそうな話。でもありそうな「話」にすぎない。
一応、さきほどの「女性が現実をみる」脳の構造になった理由を話したかに思われる。
そういう仮説を立てる人はいるが、実証的に証明するのはかなり難しいはず。
もちろん、現段階でそんな実証研究はない。

茂木

(過去の『あいのり』(たぶん)で、”こーすけ”が”よっこ”に「だからね、なんかあいのりで付き合えたらオレもうね、ずっと付き合いたいんだ、その娘と。もう、うまく行けば結婚までしたいんだ。」と語ったときの映像を観て)

「うーん……。これは、こーすけの、左脳が、暴走しているんですね。」

――「左脳の暴走」という文字が画面に大写しにされる――

茂木

「これね、男のひとはみんな覚えてないといけないです。」

「自分は左脳が暴走しやすい。」

「これ是非おぼえといてください。」

「だから!という言葉を使ってました、こーすけ。」

「これはま、典型的なロジック、AだからBっていうね、この……だから結婚したい、この、結婚したいっていう結論に、ロジックで結びついちゃうわけですけれども、これはね、やっぱり……脳が暴走してるとしか言いようがないんですね。」

「それが、まあ、学問を進めたり、文明を進めたりすることもあるんですけども、こと!男女の恋愛ってことになると、やっぱり、男のその、言葉とロジックの暴走?これは、とても受け容れられるものでは、ありません。」

なるほどさっき口説くときに左脳使うとかいいてましたが、じつは暴走だったのですね!
つうか脳が暴走するってどういうこと?脳が活発化することか?
そうすると人間、生きているときは常にどこかの脳が暴走していることになる。
もはや常識的にも変な説明。

ナレーション

「一方、よっこの場合は。」

茂木

「よっこの脳は、負のスパイラルに陥っています。」

――「負のスパイラル」という文字が画面に大写しにされる――

ナレーション

(”よっこ”は、過去のうまくいかなかった恋愛経験と照らし合わせることによって、またフられるかも、バカを見たくない、と勝手に不安を募らせてしまうという「負のスパイラル」に陥っているとかなんとか)

茂木

「不安という、この感情はたしかに大事なんですね、危険なことがあったら、たとえば、身をひそめてかくれているとか、そういう反応をすることが、生き延びる上で、大事だったんです。」

「しかしですね、その不安の感情が強すぎると、逆に、前に進めなくなっちゃうわけですね。」

「よっこの場合、ちょっとこの、感情の脳の作り出す、不安という、その思いが、強すぎるように思います。」

ついに一般論かと思ったら、最後おまけみたいに感情の脳とかくっつけている。
脳の話がなきゃまあどこぞのスクールカウンセラーが言ってそうな台詞だが。
とりあえず何でも頭に「脳が」ってつければ何かscientificなことをいったとでも思っているのだろうか。

以下「暴走脳」大理論に基づいた諸付箋が続くが、同じこと。

以上ここからわかる問題点を洗い出してみると

1)脳科学的に微妙な仮説をさも定説であるかのように話す。(半球の優位や性差)
2)脳科学的に証明がない思いつきを定説であるかのように話す。(右脳バランスと現実、狩人時代と脳、不安と脳)
3)一般論に「脳」という単語をつけてあたかも脳科学的に支持されているように話す。(不安と脳)
4)論理の飛躍や定義不明なメタファー、用語を使っていてよく考えると何言ってるかわからない。(右脳バランスと現実、「左脳の暴走」、「負のスパイラル」、「感情の脳」)
 
 こう整理すると実際脳について知らないとわからないのは1)だけで、あとは普通にきいて変だとわかるレベル。
spiklenci-slastiさんによれば、当の本人は、「科学的でない」ことは認めてるらしいですが、これをきいて科学的に話してないように感じる人はどれくらいいるでしょうか。そのことがわからないほど本人は頭が悪くはないと信じますが。
脳科学ではなく、生命哲学とかっていういいわけも結局4)定義不明な用語を使って意味がわからない に入ってしまう。