日本の心理学者・神経科学者のレベル
別に新しくもなく、ニュースでも何でもないのだが、生理研のHPをたまたま見ていたら、
http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2009/06/3.html
米国のトムソン・サイエンティフィック社は、1984-2003年の20年間の引用データベースに基づき、21の研究分野毎に引用数世界トップ0.5%に入るISI Highly Cited Researcherの名前をウェブサイト(http://hcr3.isiknowledge.com/formBrowse.cgi)に公開(2009年2月更新)している。この中に、生理学研究所からBiology & Biochemistry分野で岡田泰伸所長、Neuroscience分野で重本隆一教授と水野 昇名誉教授の計3名が入っている。
因みに、Biology & Biochemistry分野で入っている研究者の総数は295名、うち日本人は30名であり、Neuroscience分野では総数341名、うち日本人は6名のみであった。
生理研がいかにすごいかよりも、私が気になったのは、ニューロサイエンス部門では日本人はたった6人しかいないということ。それを見てふと思い、心理学を調べてみたら、なんと0人。確かに国内のどこ見渡してもいないもんな、そんなすごい人。日本で心理学者といわれている人の論文のIF見ればわかることなんだ。日本で神経科学を体系的に教えているところは少ないし、心理学なんて歴史はあるくせに未だに文学部や教育学部の1専攻、1学科でしかない。まず研究者の数が少ない。それはつまり、研究施設が少ないということ。当然の結果だが、今からこれらの分野を目指す人は海外、とくにアメリカに行きましょうということか。
しかし、神経科学と一緒に書いちゃったけど、6人と0人は違う。0って限りなく想像力をかきたててくれる。たぶんトップ10%にも誰も入ってないんじゃないか。言語の壁が、とかいろいろあるだろうが、0はちょっと違うよね。なぜ日本の心理学のレベルが低いかは割とはっきりしている気がする。文系学部にあるから。たぶん、日本では文系の教授になるための必要な要素と理系とでかなり異なるのではないか。文学部で、国際査読誌に載った論文の本数とかIFとかで、出世が決まるとは到底思えない。たとえ、心理専攻内でのそれによる序列はあるにせよ。
だから解決策はシンプル。とりあえず文学部から独立させましょう*1。そして神経科学とくっつけて新しい学部を作りましょう。
と、書いたもののこんなんじゃ全然だめな気がする。そういえば、自家栽培も問題かも。海外のPH.D取得者を優先的に採用しよう、とか。もちろん、法学ろか国文学とかドメスティックな学問は自家栽培で問題ないのだが、実験科学は別。
結局先日のエントリに戻るが、「層の薄さ」というのは、通浴本やマスコミ芸者なんかじゃどうしようもないんですよ。その先が用意されてないんだから。逆にいえば、一般の人々がいくらあやしげな神話にほだされていても、専門家がしっかりしていて、国のエリート層がだまされない仕組みがあれば問題ないはず。実際、Biology & Biochemistry分野のトップ研究者の大半を占めるアメリカでは、進化論なんて半分くらいの人しか認めてないんだから。
ニセ脳科学者はキャプテン翼になるか
ニセ脳科学とかニセ脳科学者といわれているものの社会的な功罪を検討してみる。
偽脳科学の3つのメリット
メリット1)神経科学の啓蒙になる
まともな科学者は、公的な資金を得ているのにもかかわらず、一般に神経科学を浸透させる努力をやってこなかった。そんな中、正確かどうかはともかく、彼らは一般の人にもわかりやすく説明する努力をしてきた。また、実際TVや通俗本を通して、「脳科学」に興味を持つ人は確実に増えている。
メリット2)研究資金が得やすくなる
1)の結果として、脳の研究への社会的な理解が進んだ結果、その分野の研究資金が得やすくなる。
メリット3)神経科学志望者を増やす
これは見落としていたけど、当然1)の結果として起こりえる。
日本の脳科学ブームについて: 脳と意識の最先端を目指そう
これまでも、メディアでとりあげられる「脳科学の話」に問題があるという声は、脳科学をやっているひとたちの中ではあった。実際に研究者の中で知られている現象を輸入してきて勝手に自分のものにしてしまうパターンや、根幹は正しいが話を大きくしすぎて正確さに欠くパターンなどが多々ある。そこを批判する人は実際に多いし、それらは真面目な脳科学者の気持ちとしてもっともだと思う。それでも、こういった脳科学の紹介というのは、一般の人に脳科学のハイライトを伝えるという意味では役割があったと思う。「キャプテン翼」が中田英寿を生んだ(CNNのインタヴューでそんなことを答えていた)ような役割を果たしている。潜在的な層の厚さというのは、その国の底力として反映されてくる。そういう意味では、脳科学ブームによって、日本の脳科学者予備軍の層は厚くなっているに違いない。
重要なのは、メリット1)の、一般の人々への啓蒙のようだ。メリット2),3)もそこから生じる。これらの点は認めつつも、これがそのままデメリットにもなりうる。
似非脳科学の2つのデメリット
デメリット1)間違った知識が啓蒙される
メリット1)の啓蒙が適切に行われればよいが、「品質管理」が行われてない以上、その質は保てないよ、ということ。その結果「神経神話」なるものが跋扈するようになる。
http://www.mumumu.org/~viking/blog-wp/?p=2695
しかしながら、「脳文化人」たちが「脳科学の素晴らしさ」をはやし立てることには、表裏一体の危険性が伴います。なぜなら、「小難しい」神経科学(脳科学)を人口に膾炙しようとする際には、必ずある程度のデフォルメが必要になるからです。その際にどのようなデフォルメを行うのか?というのは個々の「脳文化人」たちの裁量に任されているというのが現状です。品質管理のようなことは、業界全体では全く行われていません。
その結果として、「神経神話」が問題化するようになってきたことは皆さんもご存知の通りです。
デメリット2)研究資金が得られなくなる
これもメリット2)とは対照的に、デメリット1)から生じること。長期的に見れば、間違った啓蒙がなさえることで、その分野全体が胡散臭いものとみなされてしまい、社会的な理解がえら得なくなっていく。
(同)
しかしながら、神経科学(脳科学)は科学的手法に基づいているにも関わらず、骨相学と非常に良く似た歴史をたどろうとしています。一方で、依然として基礎科学研究は一般の人々の理解(と税金を通じた公的資金による支援)の上に成り立っているものです。その人々に「山師扱い」され、「人気をなくし」ていったら、資金不足や後継者不足によって神経科学は道半ばにして断絶してしまうことでしょう。
お気づきの通り、デメリット1)、2)というのは、メリット1)、2)の裏返しである。短期的には資金が得られるが、長期的には失うのだとすれば、ややデメリット側に説得力がある。いずれにせよ、ポイントは、啓蒙がどの程度適切になされるかどうか。
この点で参考になるのが心理学。「神経神話」なんて生まれるはるか前から、本屋の「心理学コーナー」の本はあやしげな「啓蒙本」に占領され続けてきた。もちろん本屋のレベルにもよるが、おそらく心理学コーナーにある本の、7〜8割はアカデミックな心理学とは関係がないものだ。それは「心理学コーナー」の隣がしばしば「精神世界コーナー」であることからもうかがわれる。では品質管理はなされているのか。
それなりになされていると思う。「心理学はフロイトやユングとは違い、血液型性格診断などとも違い…」といった本は、一般の書店の商業ベースに乗るかはともかく、探せばそれなりにあるだろう。もちろん、ちゃんとした入門本や啓蒙書もある*1。あやしげな「心理本」が通浴的すぎるが故に、アカデミックな心理学(実験心理学)とは明確な溝がある。また、それなりの総合大学には、基礎教養の授業の中にアカデミックな「心理学」があるところが多い。
しかし、実際の人々のイメージはどうなのかというと、ある程度教養のある人は除いて、相当程度「心理学コーナー」に影響されているのではないかと思う*2。また、とくに日本の場合、「臨床心理学」という謎の領域がある(もちろん実験屋から見ればだけど)。エビデンスベースな研究は少ないと聞くし、精神分析みたいに、今だに通浴心理学と連続する分野も日本では健在だ(といってもすべてが一緒なわけではないだろうが)。つまり、実験心理学と臨床心理学にもこれまた深い溝がある。通浴心理学と合わせて3層構造といってもよいかもしれない。いずれにせよ、通浴心理学とアカデミックな心理学はかい離しており、現在まで分野としては一応存続しいる。
だから神経科学、脳科学においても、通浴なものとアカデミックなものとの明確な分離がなされれば、骨相学ほど悲惨な状況にはならないのではないかと思う。それにはやっぱ、「品質管理」が必要で、誰かがやるしかないのだろう。
で、キャプテン翼にはなれるのか
長くなったが、今回はメリット3)がポイントだと思って書いたのだった。おもしろいのが、別に品質管理がなされまいと、啓蒙が間違ったものであろうと、「キャプテン翼」効果はある程度あると思う。というのは、たとえ当初は間違った知識を持っていたとしても、正規の専門教育を受ければ矯正されるから。とりあえず「大学(専攻、専門)までもっていく」量を増やす効果はあるのではないか。やはり、心理学でもそういう傾向はあると思う。いったい、正しい「心理学」像を描いて大学に行った人がどれだけいたか。もちろん、大学に入ってみて、イメージとは異なったがために後悔したり、専攻を選択しないという人は一定数いるだろう。が、イメージとは異なったが、アカデミックなものもそれなりに面白いと感じ、先に進む人も一定数いる。(まあ、実証的に示せないからなんとも今ここではいえないけど。)*3
何度もいうけど、メリット3)はメリット(デメリット)2)の研究資金の話とは独立に生じるものだ。つまり、最終的に研究資金が得られやすくなるか、得にくくなるのか(信用を失うのか)がわからないとしても、この「キャプテン翼」効果はまた別に可能性がある。また、研究資金は結局得にくくなる、のだとしても、このメリット3)と比して、どっちが重要か考えないと、社会的に見てトータルでニセ脳科学が良いか悪いかはわからない。
と、いままでさんざん茂木健一郎を批判してきたくせに、こんなトーンかと思う方もいるかもしれないが、批判ができるかどうかと社会的な効果はまた違うというだけの話。しかし、もちろん「実際に研究者の中で知られている現象を輸入してきて勝手に自分のものにしてしまうパターン」をやってしまうだけで私は科学者としては最低だと思うのだけど。利根川進がいっていたが、発見は一ヶ月でも一週間でも早いもの、最初のものだけが意味があるのだから。本業の方から卑怯だとか詐欺師だとかいわれもしょうがない。
*1:心理学で何がわかるか(ブックレビュー): お父さんの[そらまめ式]自閉症療育で紹介されている本とか非常によさそう
*2:逆にいえば、他分野についてどれだけ正確な概要や印象化という点が教養を測る指標にもなりうるのだろう
*3:でも実際まあ、一番多いのが臨床やりたかったけど実験かよ、ではあるのだが。
イルカを殺すのは悪か?
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2640471/4565383
http://www.news.janjan.jp/culture/0908/0908259279/1.php
「THE COVE」という映画がアメリカでヒットし、イルカ漁が批判を浴びている。
しかし、クジラ漁でもそうだが、こうした批判はどこか一面的な感じを受ける。確かにイルカは殺さないに越したことはないが、そこまで非難されるべきものなのか。
動物を殺すことそのものが悪いことなのだろうか。しかし、一部のベジタリアンを除いて多くの人は肉を食べている。食べているのだからいい、という言うひともいるが、なぜ肉を食べるのか尋ねれば、それは別に生存に必要だからではなく、「おいしい」から、「好き」だからと答えるだろう。つまり、自分たちの贅沢のために多くの家畜が殺されていることになる。また、この「動物殺し」についてはベジタリアンも罪を免れない。医薬品の開発には多くの実験動物が犠牲になっている。自分達は関係ないというのはただのフリーライドにすぎない。
しかし、映画の製作者や欧米の批判者は、「動物殺し」だから悪いといってるのではないようだ。彼らはいろいろ言っているが、一番は、おそらくイルカやクジラの社会性や知性といったものが他の動物に比べ極めて高く、人に近いという点だろう。
結局文化が違う、ということに収斂されそうだが、これは結構むずかしい点だ。(ちなみに、欧米の価値観というのは、人間のオスの白人の成人に焦点が置かれていたが、20世紀には女性も非白人も動物も権利を獲得していった。が、動物については結局、「脱中心化」も人間中心になされいることがわかる。「名誉人間」とでも言うべきか。ま、これは余談。)
文化が違うのだからという理由だけではイルカ漁は認められない。これは文化相対的な議論がアフリカでのFGM(女性器切除)で認められなくなっていることからわかる。各文化を最大限尊重しつつも、世界共通で守るべ時最低ラインというものを設ける流れになっている。多文化主義か文化多元主義という違いだ。たぶんほとんどの人は後者を選択する。だって、たとえば洪水を静めるために子供を生贄に捧げる文化があったとしても、その国の文化だからという理由で放置できるだろうか。
結局、近代社会の最低限の法倫理に抵触しない限りにおいてのみ、多様性が許される。だからポイントはイルカ漁が近代社会の法倫理に抵触するかどうかだ。現在のところ、そうしたものはないと思う。しかし、放っておけばイルカを殺さないことも近代社会の要件になってしまう可能性は高いだろう。
○○を専門にしている、とは何が出来れば言えるか?
専門(感心)をあえて3つに分類してみる。
・?専門家
phDあるいはそれ相当の資格を持っている。(その資格を得る過程で、獲得すべき能力が備わっている)
・?○○を専門にしている(いた)
その分野の全体像をおおまかに体系的に把握しており、必要とあらばその分野の原著論文を探し、理解して問題解決に役立てることができる。
・?○○に関心がある
いくつか本を読んで、いくつかの用語や背景を説明できる
最初の専門家と次の「○○を専門にしている」の違いは、歴史でいえば1次資料(論文にする前のデータ)にあたれるか、2次資料(論文)にあたれるかというところか。1次というのはたとえ専門家でも誰でも当たれるものじゃない。その資料(データ)を入手することは、なんらかの手をつくせば可能かもしれないが、歴史家同士でも細かな専門、地域(ラボ)が違えば現物を入手できるとはかぎらない。つまり実質2次資料によって学問の共有というのは形成せれるのだろう。でも実際、2次資料にあたれるだけでも大したものなのではないかと思う。これはある人は学部生のうちからできるのかもしれないし、ある人は修士でできるようになるのかもしれない。
こうやって大まかに3段階に分けてみたものの、細分化した科学の世界では、自分の「専門家」と名乗れる専門もまたかなり細かくなっている。実際、自分がやっている直近のまわりの分野について?であるが、あとは?であるということは十二分にありえる。それどころか、分野がちょっと異なると論文の要旨やイントロも理解するのも難しくなる。つまり?であることも、さらなる勉強せずには難しい。だから勉強をさぼったためかわざとかよくわからないが、どの分野にも、特に業績が査読論文で評価されない文系において、トンデモな教授というのはいつでも出てくる。
1次と2次も大きなだがあるかもしれないが、2次と3次以降の方が大きいと思う。巨人の肩の上に乗れるかという点で大きな違いがあるから。よくネットで専門家がいれば10秒で終わるような話をえんえんと垂れ流されているが(そしてそういうものの方が往々にして人気だったりするが)、*1、そういうのって結局おもしろくないしためにもならない。そのニュースのもとの論文を読まずに、その研究内容について論じようとするのってどうかと思う。こういう話は「科学」なら割り切れる人は多いと思うが、経済や教育や心理だとまた違うのだろう。
それとはまた別に、専門家が自分の専門について書いたものは他分野から見ても面白いものが多い。おそらく、それはその人が最もおもしろい(価値がある)と思いエネルギーを割いているものだらかだ。
*1:このブログもその例外ではない
進化の地図帳
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人類の祖先は勇敢な狩猟者ではなかった.トラ,ライオン,ヒョウ,ピューマ,クマ,オオカミ,ハイエナ,ヘビ,ワニ,ワシなど数々の肉食動物に補食されていた脆弱な生き物だった.本書は,化石証拠と霊長類研究の成果などをもとに,多くの人がもち続ける「人類=狩猟者」のイメージを徹底的に打ち破り,新たな初期人類像を描きだす.狩るヒトMan the Hunterから狩られるヒトMan the Huntedへ,人類史の常識を覆す衝撃の進化論がここに結実!
霊長類学者・山極寿一氏による巻末解説「人類の過去はまだ不思議な謎に満ちている.本書のように,思いがけない発想によって人類の進化史を読み解き,それを現代に生きる人間の姿に重ねてみることによって,私たちのこれからの可能性も開けてくるのではないだろうか.」(抜粋)
これが定説になったわけじゃないが、現在の人の性質は、狩猟生活時のなごりだ〜的な説明がいかに一面的見方かわかる。
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高校生クイズ
お、なんと出身高校がエイトまで勝ち上ってたときいて驚いた。見ればよかった。勝ち残る率と偏差値との相関がすごいな(うちの高校は除く)、と思ってみていたら、
そして、「高校生クイズ」は「知力」がほどほどでも、「運」や「チームワーク」で勝ち進める可能性があったから。
これまでも全国大会は毎年方向性がいろいろ変わって、少し不満だったこともありましたが、それでもやっぱり「高校生クイズ」でした。でも、今年のような知力だけの、「東大」「京大」志望者のための番組としか思えない「ただのクイズ番組」を見て、普通の高校生が来年参加したいなと思ってくれるんでしょうか。
出場者がいなくなったらこの番組は確実に終わります。
準決勝だけ見たが、ただの漢文(白文)の問題が出ていて、あれじゃ確かに大学受験向けの勉強ができるヤツが有利だと思った。確かにIQグランプリとかじゃないんだからね。