匿名の研究者はしょせん匿名論者

あるところで私が研究者としてふるまっているという非難をうけて、ふと、じゃあネット上での研究者ってなんだ、と考えてみた*1
結論からいえば、ネット上で学者*2として扱ってほしいor/and権威を発揮したいのであれば、実名を使うべきで、そうでないなら研究者扱いを求めるのはよくない。
 私が非難を受けた理由は、おそらく「その分野の研究者ならばその分野について正しいことをいっているはずだ」という前提があり、私がそうした前提を悪用しているように見えたのだろう。しかし、そうした前提を無条件にもつのはいかがなものか。
たしかに、学者の発言が権威をもつ、というのはそれ自体問題なのかもしれないがある程度しょうがない。だって学問分野は無限*3のようにあり、到底すべてを自分だけでチェックすることはできない。だからとりあえず自分の知らない分野について、「専門家の発言」だからという理由で根拠をすべて理解せずに鵜呑みにするのはかなり合理的といえる。しかし、匿名であれば話は別だ。
 まず、その人がほんとに研究者か確かめようがない。ネット上ではディプロマミルすらなくても教授になれる。
第二に、自分の発言を自分のキャリアから分離しているので発言に責任感が希薄だ。学者というのは、たぶんどの分野でも(とくに文系)、アイディアが大事で、いわば論文という「ことば」で飯をくっている人たちだろう。別に論文にしなくても、専門家として雑誌や新聞などのメディアに意見することができる。「ことば」でキャリアを築いているのだから、適当な発言をすれば身を滅ぼしかねない。だから専門家は発言に慎重になり、その結果周りはその正しさを期待できるというもの。しかしブログなどネット上で、匿名ならば、何をかこうとリアルでの自分の評価が下がることはない。なんで学者が顕名じゃないかの理由は、それぞれ事情があるだろうが、結果としてネット上の発言の責任をリアルで負わなくて済む、という状況を手に入れているのは確かだ。当然、顕名のときのような「正しさへの慎重さ」は期待できない。もっとも、これは「本人にとって」という意味で、顕名だからずべて正しい、なんてことはないだろう。相対的にさがる、というはなし。
 以上より、匿名の研究者は、研究者として扱うには問題がある。もし、あの人が認知心理学者だから、物理学者だから「正しい」ことをいっている、と思うのであれば、それは属性への過剰な信頼でしかない*4
 もちろん、学者はすべて顕名であるべきだ、などと指摘したいわけではない。匿名なんだったら、「学者としての権威」を利用しないでちゃんと説明しろよ、ということ。匿名だったら自分の発言の正当性の扱いはほかの匿名論者と同じになるのはしかたない。

*1:もちろん、研究者ではないし、そう名乗ったこともふるまったこともない

*2:ここでは専門家ということ。

*3:もちろん実際には有限だけど

*4:じゃあ実名なら属性を信頼していいのか、という問題があるが、同僚からの評価の低下というリスクを背負っている点が大きな違いだ